「おーい後輩、早く起きて」

「……あ?」

「まだ夢でも見てるの? 早く起きろよ」

よく見知った女の顔がドアップでオレの視界に映り込む。それが不快で反射的に額を叩けば、女は蛙が潰れたような声を上げてオレの頭を叩き返してくる。ふざけるな、お前とは頭の出来が違うんだぞ。

「よくもこの美少女の顔に傷を……後輩とは顔の出来が違うんだぞ!それに今日で活動は最後なんだから」

「最後……最後って、何が」

「何がって、君とわたしだけしかいない文芸部は今日をもって幕を閉じるというわけさ」

「ああ……」

そうだ。そうだった。

目の前の丸眼鏡をかけた愚図女────こいつは、オレの先輩だった。たった二人の文芸部。どれだけ天才であるオレが素晴らしい物語を紡ごうが、それを読むのは凡人であるこいつしかいないってわけだ。全く反吐が出るね。

部室の机で寝ていたらしく、体を起こせば骨の鳴る音がした。窓の外に目を向ければお誂え向きに桜の花びらなんかが舞っている。陳腐で、ありふれた演出。

「後輩のことだから桜なんて陳腐だと思ってるんでしょう」

「心を読むな」

「……いよいよその言葉遣いは治らなかったな。わたし、これでも先輩なんだけど」

そう言いながら顔を顰めて、頬杖を付く。

「先輩後輩なんて序列、たかが生まれた順の違いだろ。そんなもんに何の意味がある」

「意味はあるよ。だってほら、先に生まれた側からすれば、後に生まれた人間なんてのは、交通事故みたいなもんだよ。避けようのない、衝突事故」

「……衝突事故、ね」

「まあ、後に生まれただけの君には分からないでしょうけど」