誰かに頭を叩かれた気配がして、目を覚ます。
「……あ?」
よく見知った愚図女の顔がドアップでオレの視界に映り込む。それが不快で反射的に額を叩けば、女は即座にオレの頭を叩き返してくる。ふざけるな、お前とは頭の出来が違うんだぞ。
女は怒ったような顔をして、人差し指を口に当て、静かに、というようなポーズを取った。女の背後に見える本棚の群れから、今自分がいる場所を悟る。図書館なら図書館って最初からそう言えよ。
ただ、どうしてオレがここに居るか、その前後の記憶が曖昧だった。
オレの脳細胞を死滅させた女は、ぼんやりと、近くの本棚に佇んでいる。やることもないのでそいつの近くに行けば、驚いたように肩を跳ねさせた。なんだよそんの反応は。
「なんか探してんのか」
オレがそう言うと、目を見開いてまた黙れと言わんばかりに人差し指を口に当てる。そんなに大した音量でも無いのに、こいつの反応はやたらと過敏だった。あれか、こいつ映画館で映画が始まる前からマジで黙ってるタイプの人間だろ。
女はいよいよオレを無視して、本棚の隅から隅まで本を確認しようとする。それは背表紙を一つ一つ指でなぞっていくような、効率の悪いやり方だった。それを見ているオレは余計に苛々とする。検索サーチを使って番号を調べてそれを頼りにそれを探す方がどう考えたって早いに決まってる。それなのにこいつは馬鹿じゃないのか。
その女をその場所に放置したまま、無人のカウンターに行って紙とペンを探す。ペンは直ぐに見つかったが、紙が無い。仕方がねえから、ここの人間が折ったであろう折り鶴を開いてメモ替わりにすることにした。罪悪感が無くもないが、文句はあの女に言ってくれ。
『何探してんだよ』
それだけ紙に書き殴って、それを女の前で見せる。そいつは困った顔をして、オレが渡したペンをおずおずと手に取った。
『分からない』
「はあ?」
思わず声が漏れて、非難めいた視線に晒される。はいはい、オレが悪かったよ。
『本の名前が、思い出せなくて』
『一文字もか?』
『分からない』
『ジャンルは?』