「シンデレラ、早く起きて」
「……あ?」
「まだ夢でも見ているのかい? 早く起きなさい」
よく見知った女の顔がドアップでオレの視界に映り込む。それが不快で反射的に額を叩けば、女は蛙が潰れたような声を上げてオレの頭を叩き返してくる。ふざけるな、お前とは頭の出来が違うんだぞ。
「よくもこの美少女の顔に……君とは顔の出来が違うんだぞ! それに今日は、待ちに待った舞踏会なんだから」
「舞踏会……舞踏会って何だよ?」
「何のって、魔法使いであるわたしが、魔法をかけてあげるんじゃないか。君は舞踏会に行って、君に相応しい相手を探しに行くんだ」
「ああ……」
そうだ。そうだった。
目の前の丸眼鏡をかけた愚図女────こいつは、魔法使いだった。頼んでもいないのにオレをシンデレラなんてのに祭り上げて、舞踏会とかいうクソイベントに連れて行こうとしている。誰が頼んだんだよクソが。
「いいか? オレはそんな有象無象のイベントに付き合ってる暇なんてねーんだよ」
「でも今の君は、上の兄弟達にこき使われているだけじゃないか。君ほどの才能がある若者がこんなところで燻っているなんて勿体ない」
「訂正箇所が二つある。一つ、オレは才能ある若者なんて凡俗じゃなくて天才だ。二つ、燻ってるんじゃなくて待ってるんだよ────あいつらの頭を爆発させる日をなァ!」
「め、めちゃくちゃキレてる……」
半目でオレを見た魔法使いは溜息をつく。なんだよその目は。
「でもまあ、お姫様と結婚して逆玉を狙えば君は実験し放題だ。君の才能も認めてもらえるし、兄弟の頭を爆発させる日も今よりずっと近くなるだろう」
「逆玉ねェ…………」
「さあ、立ってシンデレラ。わたしが君を素敵に着飾ってあげよう」
これみよがしに杖を降れば、オレの薄汚れた白衣は汚れ一つ無い衣装に変わる。