※R-15
「あ」
そう零れた声が、チリの鼓膜を揺らしていく。いつも彼女は達する前に口をパクパクと、まるで魚のようにさせるものだから分かりやすい。 だからチリは心を殺した。いつもの、あの言葉が来ると知っているから。チリは自分がまるでこの女と関係がありませんというような顔をしてみせた。最も、どれだけチリがそんな顔を取り繕おうが、ひいひい喘ぐ女の前では無力だったのだが。
「チ、ぁ……チリちゃ、ん、」 「……んー?」
聞きたないなあ、とチリは思った。
「───────すき」
その言葉と共に女の体は反って、微かな悲鳴とともにその薄い肌がチリの前に差し出される。だからチリはその臍の下に口付けをした。本当は噛んで、貪り食ってやりたかったけど。我慢してやった。
意識を取り戻した女は、ぐでぐでになった体をこちらに寄せてきながらいつもこんなことを言う。今日だってそうだった。
「あ、さっき言った好きって言うのは別に本当にチリちゃんのことが好きなんじゃなくて、性欲に負けた結果言ってて……」 「うん。いつものな。分かっとるよ」
知っとるわアホボケ殺すぞ、と言わなかった自分を誰か褒めてほしい。 チリは心からそう思った。
女は真面目だった。いや、真面目というよりも誠実に近いかもしれない。だから平然と交際してない相手とセックスが出来るし、セックス中に零した「好き」の言葉を逐一訂正してくる。
さっきのは性欲に負けて言っちゃったんだ。私セックスが好きだから。セックスに弱いの。だから言っちゃうの。ごめんね。
初めてそう言われた時、チリはカッと頭に血がのぼって女をベットに押し倒した。別に事に及ぼうとしたのでは無い。単純に、このどこまでも愚かな女の首を絞めてやろうとしたのだ。 でも、出来なかった。出来るのならば、チリはこんな女を好きになっていない。 力尽きて自分の隣にばたりと伏せったチリを女は不思議そうな目で見つめた。そしてこう言った。 「……もう一回する?」 アホボケカス、とチリは頭の中で唱えた。 まあ、もう一回したけれど。
そもそもどうしてチリが彼女のことを好きになってしまったかというと、その理由はずっと単純だった。 チリは気心の知れた相手にはどうにも口が悪くなってしまって、だから学生時代、愚痴を零しながらいつものようにホンマ殺したろうかな、と言った。ちなみに愚痴を言っていた理由はもう覚えていない。 それが良くない発言だとは分かっていて、だからチリは今のやっぱなし、と訂正しようとする。 『───じゃあ、殺そっか』 そしてその前に、対面の女がそう言った。 明日映画行かん?じゃあ、行こっか。 数日前にしたそんな会話を思い出すような、軽やかな口ぶりで、女は殺そっか、と言った。 頬杖をついた彼女は微笑んでいて、それにチリは目を奪われた。好きだ、と思った。 『どうやって死体、隠そうか。ポケモンに食べさせようか』 そういう酷いところすら、チリは好きだと思った。
性欲は恥ずべきものではなくて、だからセックスも友達と出来る。寧ろ友達だからしてる。 というのが、チリには全く理解できない女の理論だった。世の中にはセフレという言葉があるけれど、女からすれば逆なのだ。フレンドセックス。セックスよりも上位に友達が来る。友達だからセックスが出来る。この独自体系の理論がチリにとっては非常に厄介だった。
「███くんがね、私の事好きだって」 「へー……」