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吸血鬼マイクロビキニは、その晩とんでもないものを目にしていた。勿論、それはマイクロビキニ集団の群れではない。彼にとってマイクロビキニは親の顔より見慣れたものであり、裸よりも神聖なものなのだから。例え周囲の通行人が怯えようがハンターに通報されようが、マイクロビキニに怯えることはない。
……はずだったのだけれど、今宵は妙なことが起こっていた。彼が率いる(より正確に言うのなら噛んだ)マイクロビキニ軍団が何やらざわざわと騒がしく蠢いているのだ。これだから下等な人間どもは集団行動もろくにできず困ると吸血鬼マイクロビキニはのしのしとした足取りでそこに向かう。すると周囲から煙たがられるように一人の女がぽつねんと立っていた。マイクロビキニ姿だった。なので彼は「なんだただのマイクロビキニか……」と思ったものの、次の瞬間とあることに気づく。
それは、切り傷だった。
それは、殴打痕だった。
それは、青アザだった。
女の露出した肌にはありとあらゆる傷があった。マイクロビキニになったことで、恐らく服の下に隠れていたのであろうそれが表出して、全てが衆目に晒されていた。
吸血鬼マイクロビキニは────焦った。それはもう、かつてないぐらいに焦った。かの真祖に絡まれた時ぐらい焦って、思わず「ウオーッ!?」とよく分からない声を上げた。吸血鬼マイクロビキニは、そのマイクロビキニに関する思想こそ社会には受け入れて貰えないけれど、それ以外は至極まっとうな性格だった。他人に対して情があるし、兄弟を大事にするし、他人と暮らしている吸血鬼だった。だから、彼の至極真っ当な頭には「虐待」「DV」「通報」「コールセンター」などの単語が勢いよく回り始める。しかし彼のそんな気も知らず、声に気がついた女がぐるりと彼の方に顔を向け、何を思ったのかこちらに歩いてくる。そして身体に反して傷一つない顔に笑みを浮かべて、吸血鬼マイクロビキニに話しかけるのだった。
「あの……」
「……………………今日は寒いな」
「え?」
「寒いな!今日は!コートとか着た方が良いんじゃないか!?」
そんな彼を知る人間が聞いたら卒倒するような内容を、彼はべらべらと捲し立てた。とにかくこの女に服を着せなければならないという思いだけが、彼を支配していたのだった。それはなけなしの倫理観が、彼の信仰を上回った瞬間でもあった。
「でも今夏ですけど……」
「夏が寒くちゃだめか!?夏にだってその自由はあるだろうが!」
「今日ニュースで熱帯夜だって……」
「フェイクニュースだそんなもんは!」
「………………」