「先生、早く起きてくださいな」
「……あ?」
「まだ夢でも見てるんですか? さ、起きてください」
よく見知った女の顔がドアップでオレの視界に映り込む。それが不快で反射的に額を叩けば、女は蛙が潰れたような声を上げてオレの頭を叩き返してくる。ふざけるな、お前とは頭の出来が違うんだぞ。
「美少女の顔に傷をつけるなんて、ひどい先生。先生とは顔の出来が違うんですよ? でもまあ、最後だから、別に構いませんけど」
「最後……最後って、何が」
「何がって、ひどい先生。わたし、明日で死ぬんです。だから先生とお話できるのも、今日が最後」
「ああ……」
そうだ。そうだった。
目の前の丸眼鏡をかけた愚図女────こいつは、オレの患者だった。この世界でたった一人、病を抱えて、今日こうして死んでいく。オレはこいつの主治医というよりも、観察係に等しかった。夏休みに、兎の世話を押し付けられた小学生と何も変わらない。兎はオレが何をしなくても死ぬ。餌を与えても死ぬ。最初からそう決まっていた。
「明日なんてずっと来なければいいのに」
気負う様子も見せず、笑いながらそんな台詞を平然と吐く。
この病室は、どこまでも白い。この患者が着ている妙にサイズの合っていない服も、どこまでも白い。僅かに見える皮膚も顔も青白い。それこそ本当に、兎のように。
「さ、先生。時間もありませんから。オセロの続きをしましょう」
「どうせお前が負けるだろ」
「最後まで分かりませんよ」
申し訳程度に備え付けられた引き出しから、もう既にまばらに配置されたオセロの盤面が出てくる。オレたちは白い椅子に座って、向かい合う。
「あら、先生は黒ですよ。白ではなくて」
「……そうだったか?」