「めんどくさーい」
「……おい、今何と言った」
また始まった、と副会長である白鳥は内心で頭を抱えた。他の生徒会のメンバーも、また始まったと言わんばかりの顔をしている。生徒会室の長い机の両端に座った生徒会長と書記の間に、見えない火花が飛び散っているのを見た。ゴングが鳴る音も、心做しか聞こえた気がする。
「だって校舎にゴミが落ちてないか、の見回りなんてダルすぎるもん。なんで掃除の時間があるか塚くんは考えたことある?」
書記の少女は、誰かの名前をまともに呼んだことがない。手塚のことは塚(ヅカ)くんと呼ぶし、白鳥のことは白(シロ)ちゃんと呼ぶ。同じクラスらしい乾に至っては「ぬ」だった。あの乾が珍しくめそめそとしていたことを、白鳥は現実逃避のようにぼんやりと思い出す。
「……掃除の時間がなんのためにあるかは至極承知している。だが見回りを行うことにより、生徒の意識を高めればその掃除の時間がもっとより良いものになるのではないか」
「いや、なんないなんない。塚くんは全人類が塚くんじゃないってことに気づきなね?」
「それはお前という自堕落な人間がいることで毎日気付かされているが」
少女は手塚のその言葉に笑った。白鳥から見る二人はいつだって対照的だ。いつも口元を平行線にしており、優等生極まりない手塚。いつも笑っており、時折学校にすら来ないことがある少女。
白鳥が気がつくと、少女の手元では凄まじい勢いでシャーペンが回っていた。これを見る度に白鳥は実に鮮やかなものだなあ、と思うのだけれど、手塚は酷くこれを嫌っているので、口に出すことは出来なかった。
「だったら尚更分かるでしょ?私みたいな人間が、この地球にはたくさん蔓延っているのです。見回りで意識を向上させるより、ゴミ箱の数増やした方がいいと思うんだよね私は。どっちかというと、自販機横のペットボトル入れが飽和して燃えるゴミの方に突っ込まれてることの方が問題だと思うし。白ちゃんもそう思うでしょ?」
「えっ」
にっこりとした微笑みが白鳥を向く。正直なところ、白鳥はどちらかと言えば少女の意見に賛成だった。手塚の思想が正しいのは誰だってわかる。けれどこの受験期に見回りという業務が増えるのは白鳥としては避けたかったし、自販機横のペットボトル問題も、実際に起こっていることだった。ゴミ箱を増やすという提案には実現性がある。
しかしそれを手塚の前で表明出来るかと言われれば、話は変わってくる。手塚の公明正大さは誰もが知るところで、そんな彼の前で断罪を受ける勇気は、白鳥に限らず誰にだって無いだろうと思われた。だから白鳥は震える声で「私は、」と呟く。しかしそれを遮るようにこんな声が走った。
「あ!もう六時だ!今日の生徒会はこれで終わり!解散!」
「おい、まだ話が終わって────」
「話を終わらせられなかったのは塚くんと私の責任で他の子には関係ないと思いまーす!そんなわけで解散!ほら、各自部活行った!私は買い食いして帰るけど」
「はあ…………」
手塚が若干疲れたように指を額に当てる。そんな光景を意に介さず、少女は真っ先に荷物をまとめて「お疲れさんでーす」と教室を出た。それに流されるように、周囲を伺いながらも、生徒はゆるやかに出ていく。白鳥も出る時まではのろのろとしていたけれど、一度出てしまえば走って靴箱に向かった。