「夏は死の匂いがする」

それが先輩の口癖だった。先輩は気取った言い回しをするような奴で、いつも煙草を加えては、ガシガシと噛んでその一部を飲み干していた。俺はまあ当然煙草なんてもんは吸えねえけど、それが体に悪いことだけは分かった。死にたいんだろうなと思ったし、そんなら戦場で死んだがマシじゃないのかとも言った。先輩は怒りもせず、ただ笑った。それは嘲笑とかじゃなくて、婆ちゃんが孫にするような笑みだった。俺はなんとなく呆気に取られて、それ以降その話をしなくなった。

「暑……」

「今年はあれだな、去年より暑い」

「それ前も聞いたろ」

「そうか?」

先輩は笑った。薄い色のワンピースを着た彼女はいつも通り煙草を口にくわえて、それが恐ろしく不釣り合いだったのを覚えている。

「雲ひとつも無いのがなーんでこんな喜ばれるかね……」

俺が忌々しげにそう呟けば、先輩は「お前にしちゃあ珍しく良いことを言うね」と笑う。

「良いか?」

「良いさ。お前のその自分で考えるところは、お前の美点だよ。確かに快晴は気持ちがいいけれど、私はどこかおぞましくてならないな……」

「おぞましい、ねえ」

「白鳥はかなしからずや、とはまさにこの事だろうな」

「……いや知らねえ」

「お前ほんとに現役高校生か?しっかりしろよ」

そんな会話をしながら二人して馬鹿みたいに空を見上げる。なーんもねえ。天井が無いだけで、途方も無いというだけで、人間はこんなにも不安になる。

「ブルースクリーンってあるだろ。パソコンの。私は何も無い空を見るとそれを思い出す。こんなにも綺麗なのに、どこか作り物めいていて落ち着かなくなる」

「でも、空が青いのには理由があるだろ、確か」

「そうだけどね。それを受け入れられるかは別の話だ。これは信仰の問題だよ」