「────、早く起きて」
「……あ?」
「ねえ、聞こえてる? 夢でも見てるの? 早く起きてよ」
ノイズ交じりの女の声がオレの鼓膜を揺らす。それが不快だったが、叩く額はどこにも無い。ふざけるな、こっちはやり返しも出来ないんだぞ。
「んで……なんでお前とオレはこんなところで呑気に会話なんかしてるんだよ」
ここがどこかなんて馬鹿げた質問をする人間は────人類はいないだろう。世界の涯てから何光年も離れた場所。瞬く無数の星の名前をオレ達はどこまで覚えていられるだろうか、なんてポエムはいくらでもあるだろうな。
「なんでって、────が、ひとりで宇宙に行ってしまうから。わたしはこうして地球から、電話をしてあげているのです」
「ああ……」
ノイズの向こうの、丸眼鏡をかけた愚図女────こいつは、オレの知人だった。地球に一人だけの。顔が似ていないのも当然で、あいつよりオレは頭が良かったし、行動力があった。理系と文系の違いもあった。そのくらいには他人で、他人の中では一番近しい他人だった。
「ね、宇宙はどうですか」
昔、これと同じ声色の言葉を聞いたことがある。オレとしたことが、いつのことだったか思いだせない。まあ、いちいち覚えるほどでもない、くだらねーことだったんだろう。
「死ぬほど広いな」
「広さで思いだしたんだけど。よくさ、なんちゃらドーム何個分みたいな喩えがあるじゃない? わたし、ああいうの、一回も理解できたことが無い人間なんだよね」
「昔からお前は空間把握能力に乏しかったからな。センター数ⅡBの大問、オレに教えを乞うたにも関わらず半分捨ててただろ」
「文系だからいいんですう! 国語九割取ったからいいもん」
「あんなクソ主観問題をまぐれで当てたぐらいで誇るな文系が……」
「……キレ方が本気過ぎない? 君、よく問題制作者と解釈違い起してたからなあ」
宇宙に来てまでする会話じゃねえな。どうにも声色に覚えがあると思えばあれだ、こいつと行くファミレスでの最初の一言目は決まって「ね、最近はどうですか」だった。宇宙とファミレスの区別もつかねえのかこいつは。
「────はさ、そこで何してるの?」